国立「新皿屋舗月雨暈」の感想など 

カテゴリ:歌舞伎

先日、観劇いたしました 国立大劇場「新皿屋舗月雨暈」の感想などを書かせていただきます。


「新皿屋舗月雨暈」は 1883年(M16)初演、黙阿弥作の世話物の舞台です。
「魚屋宗五郎」は頻繁に上演されますが 通しでの上演は珍しく、筋書きによりますと20年ぶり 「お蔦部屋」は85年ぶりの上演だそうです。
全体のお話の流れは磯部家のお家騒動で その中に、武士と町人の関係や酒にまつわる展開が絡んでいます。


今回の上演は四幕で 前半の序幕と二幕目の「お蔦殺し」は時代がかった展開で 後半の三、四幕目の「魚屋宗五郎」は世話物の舞台です。
全体の流れを考慮しての事だと思うのですが 前半のお蔦の件も竹本の舞台ですが わりと軽めにお話が進みます。
通しの前半部分「お蔦殺し」は 後半の「魚屋宗五郎」に繋がるよう意識して台本を再検討したのだそうです。
確かに、通しでの舞台の雰囲気は一貫していたように感じましたが 時代風な前半が軽くなり、「詮議の場」では新作歌舞伎を思い起こすようなところもございました。
特に、感じましたのは 岩上典蔵が、お家乗っ取りを企てるような時代物のハラの太い悪人には見えませんで かなりチョロイ悪な感じでした。
また、「詮議の場」での磯部主計之介が 中途半端に感じました。
お蔦を殺した動機が酒乱のためなのか、恋ゆえの一途な想いからなのか どちらにも受取れるような展開になっています。
親類にお蔦の身分を咎められ それでもお蔦を想い、お蔦を庇った自らの心を裏切ったと思い込んだことが動機になったようにも見えるのです。
似たような台詞もあり、この場のお話の展開に「番町皿屋敷」の青山播磨が重なってしまうのです。
どちらも「皿屋敷」の趣向を取り入れた舞台ですが テーマは異なります。
だた、酒に飲まれてお蔦を殺したという事より 典蔵らの企てによって、恋心を裏切られたと思い込んだゆえ殺したとした方が今風かもしれませんが それでは主計之介の酒乱が霞んでしまいます。
もしかしたら 前半をガッシリとした時代物として上演しても 酒に飲まれ、酒乱になる者を見せきる事で 後半の世話物と‘対‘になり、違和感なく通しで見ることができるのかもしれません。

他に、今回の通し上演で「お蔦部屋の場」を見まして おなぎがお蔦の召使であったことを初めて知りました。(^^ゞ
ワタクシ、今までおなぎはお蔦の同僚だと思っておりました。
確かに・・・よ~く考えれば、お蔦は磯部家に妾奉公していて おなぎは磯部家の腰元ですから おなぎが主計之介の愛妾であるお蔦に仕えていたという事なのですね。


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序幕「弁天堂」は 大太鼓の風音で幕開き 亀蔵丈・岩上典蔵が、お蔦の部屋から盗み出した重宝の茶碗を持って花道からの出になります。
お蔦に横恋慕し、お家乗っ取りを企てる悪い奴ですが ケッコウ軽めな悪人で(^^ゞ 時代物の重みのある悪と申しますより、小悪な雰囲気です。
猫(コマっと、呼ばれていました)に飛び掛られて茶碗を落としてしまうくらいですから かなりチョロイです。(^^ゞ
この軽めの小悪な感じと申しますのは 世話の「魚屋宗五郎」と一貫性を持たせるためには良いのかもしれません。
そういう意味では、亀蔵丈の典蔵は、良かったと思います。

この後、猫を捜して孝太郎丈・お蔦が花道から出ます。
花道七三でのおっとりした風情が良く 下座のしっとりした音色と良く合っていました。
ここで、この舞台のお蔦の格が決まったと申しましょうか 出だしに今のお蔦の主計之介に仕える身の雰囲気があるところが、先の展開にも活きています。
実は、ワタクシ 舞台を見る前は 孝太郎丈のお蔦は、もっとくだけているのかと思っていたのですが 軽めではございますが時代物の落着きのような感じはあったと思います。

他、亀寿丈・浦戸紋三郎のキッパリとした、若侍らしい台詞が良いです。

幕切れ前は お蔦、典蔵、紋三郎に彦三郎丈・浦戸十左衛門が加わりだんまりとなり 典蔵がお蔦の帯を持って行きます。


「お蔦部屋」は「加賀見山旧錦絵」のような一場面です。
で、ここで おなぎがお蔦の召使であったことが分かりました。(^_^;)
この舞台を見るまで お蔦とおなぎは同僚だと思っておりました。
竹本でお話が進むところですが ここも、わりとあっさりしておりまして 時代物風でお話が展開していきます。
パロディーとしての面白さがあるわけでもなく 時代物の重圧さがあるわけでもなく 小粒な感じの舞台です。

梅枝丈・おなぎは黄八丈の衣装で、可愛らしさの残る小娘の感じです。
竹本のオキで下手からの出で孝太郎丈・お蔦が出ます。
不義の疑いをかけられ暗い面持ちで舞台に出ますが ここの孝太郎丈は、もう少し大きさが欲しいと思いました。
梅枝丈・おなぎとの格の違いがはっきり見えてきません。
竹本の舞台で、「加賀見山」のような展開ですので もっと重圧感があってもいいように思いました。


「詮議の場」も竹本の舞台です。
亀蔵丈・典蔵は、ニクニクな感じはあるのですが ここでも極悪な雰囲気は少ないです。(笑)
友右衛門丈・主計之介は品のある風情は良いと思うのですが 酒乱と申しますより 生真面目だけれど料簡の狭いヘンな性癖のある危ない人のように見えてしまいました。(^_^;)
オモイッキリ‘あさはかな人‘に見えてしまいます。
さらに、危なそうなところは ドロドロドロのお蔦より不気味かもしれません。
孝太郎丈・お蔦が良いと思いました。
忠義を含めた真面目さ、この場では登場しない家族への想いが伝わり お蔦の背景が見えてくるので 今の成り行きへの悔しさが、わざとらしくなく浮かび上がってきます。
「お蔦部屋」でのあっさりな雰囲気と比べてもハラがあり見応えのあるお蔦だと思いました。



ここまで、全体に 竹本の舞台ですが、後半の「魚屋宗五郎」を意識してか 重さを感じない、わりとあっさりな舞台です。
世話がかった時代物という雰囲気で 竹本の舞台としては物足りない感じでしたが 後半への流れとしては違和感のない舞台だったと思います。
「詮議の場」も大仰にならないので あざとい感じはなかったです。
前半の時代物の舞台と、後半の世話物の舞台のバランスが良いと思います。
ですが、ワタクシの好みでは(笑) 前半はガッシリと時代物 後半はガラッと雰囲気が変わって世話物 お蔦の顛末を舞台の流れにして、主計之介と宗五郎の酒乱というテーマで一貫させ、対比の舞台が見たいと思いました。



「宗五郎内」からはよく上演されるところで 世話物の舞台です。
祭囃子の下座で幕開き 舞台は宗五郎の家です。

まず、舞台にいらっしゃるところで 孝太郎丈、二役目のおはまは 魚屋の女房にしては硬い感じで どことなく暗い雰囲気に見えました。
分別があり また、コミカルに外しすぎないところは良いと思うのですが 世話物の軽妙さ、江戸のチャキチャキっとした雰囲気は少ないように思います。

亀寿丈の二役目、三吉を拝見いたしますのは、昨年11月めぐろパーシモンホールでの上演に続いて2回目になりますが 流れも良くなり、動きも自然になっていました。
前半の時代物の台詞に比べますと、まだ少し‘言っている‘感じはございますけれど 酒樽を持って来た丁稚と話をするところの自然な感じ、おなぎに立ったままお茶を差し出すところのタイミングなど大健闘だと思います。

松緑丈・宗五郎は花道からの出になり、花道七三で萬太郎丈・鳶吉五郎とすれ違います。
萬太郎丈、まだどことなくかわいい雰囲気が残る(笑)鳶ですが 宗五郎との短いやり取りに、何を言っているのかがちゃんと伝わりました。
ここで鳶吉五郎と宗五郎のやり取りがきちんと伝わると この時の宗五郎の置かれている状況がよく見えてきます。

松緑丈・宗五郎、出だしの花道から目を引く雰囲気がございます。
特別に何か目立つ事があるのではございませんが 台詞に宗五郎の真面目さがあり、きっちりとした人柄が見えてきます。
悲しみの中にも、それを抑えて周りを気遣う様子が自然に見えてくるのが良いと思いました。
また、家族に対してとても優しい宗五郎で 「今日は送るもんじゃねえよ」の台詞にも根の優しさをフッと感じます。
また、お蔦の死に怒る家族に道理を話すところは とても丁寧に余計なことなくしっかりお勤めであったと思います。
この後、おなぎが訪ねて来るわけですが 木戸口のおなぎを見たところの松緑丈・宗五郎の思いいれがとても良いです。
これまで抑えていた悲しみが抑えきれずに、グッと詰まって言葉が出なくなる様子で、お蔦が亡くなった悲しみをこらえているのが伝わります。
ここから、おなぎの話を聞いてお蔦の死の真相を知り、酒を飲み始めるわけですが このところの松緑丈・宗五郎の変化に情と勢いがあり、なかなか面白いです。
おなぎの話を聞き、真実を知ったゆえのブチ切れから酒を飲む宗五郎 お蔦の最期を聞いて、悔しい想いに 禁酒を破ってすまないけれど、飲まずにはいられない っと、いう情から酒飲みは始まります。
酒を手に、父親と金毘羅様に謝る姿に‘どうしても‘の心情が見えます。
で、これが 酒の勢いで 酒呑み故の酒になっていくのですが ここの勢いの良さがパッと眠気を吹き飛ばすようで(笑) 面白いです。
酒を飲むところの型は 多少、体を揺すり過ぎるようでした。
「おうおう、誰に断って殺しやがった」 っと、いう台詞 宗五郎の辛い心情が伝わり また、妹思いの良い兄貴だと思いました。
幕切れ間近、花道七三で角樽を振りかざして決まったところが大きいです。
若さゆえなのでしょうけれど 向こうっ気の強い勢いがあってとても良いと思いました。

梅枝丈・おなぎは この場でも旗本に仕える楚々とした感じがあります。
で、今回は前半に磯部館でのお話がございましたので この場でお蔦のことを語るおなぎの悲しい気持ちもよく伝わったと思います。


「玄関先」 幕開きは板付きで中間の台詞で状況説明 花道から松緑丈・宗五郎の出になります。
典蔵を相手に暴れているところは、前の場からの勢いがございますが 玄関先に座り込んでの「酔って言うんじゃございませんが」からの台詞になりますと、一本調子で 酒に酔って乗り込んできたような台詞には聞こえないかもしれません。
ですが、言っている事そのものの心情は伝わるので 妹・お蔦を奉公に出した事への後悔は感じられます。
他、彦三郎丈・十左衛門の大きさ 孝太郎丈・おはまの気遣いが良いです。


舞台が回り「庭先」 松緑丈・宗五郎は、「玄関先」が一本調子でしたので この場で目覚めたところに、酔いから醒めた雰囲気が少ないです。
ですけれど、松緑丈と孝太郎丈 共に軽すぎない雰囲気、ギャグにならない加減のある面白味が良いと思いました。


全体に、松緑丈・宗五郎は まだ、大きさは出ませんし 酒を飲む時の型、玄関先での台詞、酔いが醒めたことを見せる加減など これからのところは多々あると思いますが とにかく、余計なことなくきっちりとお勤めなのが分かる舞台ですので 今後、とても楽しみで期待できると思います。


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